「先生、私は糖尿病じゃないのに、どうして糖尿病の薬を飲んでいるんですか?」——こうした質問は、最近では心不全や慢性腎臓病の患者さんからも増えてきました。当院は特に循環器内科を専門にしていることもあり心不全の患者さんによくSGLT2阻害剤を処方しています。
この「糖尿病の薬」は、SGLT2阻害剤と呼ばれるもので、もともとは糖尿病の治療薬として開発されました。しかし、最新の研究でSGLT2阻害剤が糖尿病以外にも効果を発揮することがわかり、特に心不全や腎臓病の治療に有用であるとされています。実際に日本では、「ジャディアンス」や「フォシーガ」というSGLT2阻害剤が、心不全および腎不全の治療薬として承認されています。なぜ糖尿病でない方にもSGLT2阻害剤が処方されるのか、その効果や安全性について詳しくご紹介します。
SGLT2阻害剤とは?
SGLT2阻害剤(エスジーエルティーツーそがいざい)は、腎臓の働きを調整して、余分な糖を尿と一緒に体外へ排出することで血糖を下げる薬です。もともと糖尿病患者さん向けに開発されましたが、心臓や腎臓にも良い影響を与えることが近年の研究でわかってきたため、糖尿病以外の治療にも使われ始めました。
SGLT2阻害剤が心不全や腎臓病に効く理由
SGLT2阻害剤が心不全や腎臓病に対しても効果的である理由は、その働きが「糖の排出」だけでなく「余分な水分や塩分の排出」にも関係しているからです。これが心臓や腎臓の負担軽減に役立つと考えられています。
1. 心不全の患者さんにおける効果
心不全とは、心臓がうまく血液を送り出せなくなる病気で、全身に酸素が十分に供給されなくなる状態です。SGLT2阻害剤は体内の余分な水分と塩分を排出し、血圧を下げる働きがあります。これにより心臓への負担が軽減し、症状の進行を抑える効果が期待されています。例えば「ジャディアンス」や「フォシーガ」は、心不全の患者さんに対して、症状の改善や入院リスクの低減といった効果が確認されています(1)。
2. 腎臓病(慢性腎不全)の患者さんにおける効果
腎臓の働きが低下する慢性腎臓病では、体内の老廃物や余分な水分を効率的に排出できなくなり、むくみや血圧上昇などが見られることがあります。SGLT2阻害剤は腎臓の中の圧力を下げて、腎機能の保護に役立つとされています。これにより、腎臓病の進行を遅らせる可能性があり、「フォシーガ」や「ジャディアンス」では腎不全の進行抑制や透析開始のリスク低減が示唆されています(2)。
SGLT2阻害剤を服用する際の注意点
SGLT2阻害剤には多くのメリットがありますが、以下のような注意点もありますので、医師の指示のもとで服用することが大切です。
- 尿路感染や生殖器感染:尿中に糖が増加するため、尿路や生殖器感染症のリスクが上がることがあります。
- 脱水症状:体内の水分排出が増えるため、適切な水分補給が重要です。
今後の展望とまとめ
SGLT2阻害剤は、もともと糖尿病治療薬として開発されましたが、心臓や腎臓に対する保護効果が期待され、糖尿病以外の疾患にも用いられるようになっています。国内で承認されている「ジャディアンス」や「フォシーガ」は、心不全や腎不全の患者さんにとって新たな治療手段として注目されており、今後もさらなる研究や臨床試験の結果が期待されています。SGLT2阻害剤は、今後もさまざまな心臓病や腎臓病の治療に大きな可能性を広げる薬剤として活用されていくでしょう。
参考文献
- Packer M, et al. Cardiovascular and renal outcomes with empagliflozin in heart failure. N Engl J Med. 2020;383(15):1413-1424.
- Heerspink HJ, et al. Dapagliflozin in patients with chronic kidney disease. N Engl J Med. 2020;383(15):1436-1446.
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