最近、心不全や腎不全の治療において、新薬が次々と開発されており、患者さんにとってより良い治療法が増えています。その中で注目されているのが、フィネレノンという薬です。少し聞きなれない名前かもしれませんが、製品名はケレンディアといい、心不全や腎不全の新しい治療オプションとして注目されています。
フィネレノンの心不全への効果
フィネレノンは、特に軽度から中等度の左室駆出率が低下した心不全(HFmrEF)や左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の患者さんに対して効果が期待されています。2024年に行われた欧州心臓病学会(ESC)で発表されたFINEARTS-HF試験では、フィネレノンが心血管の死亡リスクや心不全による入院リスクを減らすことが確認されました。
この試験では、左室駆出率が40%以上ある心不全患者を対象に行われ、フィネレノンを服用した患者さんは、プラセボ(偽薬)を服用したグループに比べて、心血管イベントや心不全の悪化による入院リスクが16%低減しました。この結果は、これまで治療が難しかった心不全のタイプに対して、新たな希望を提供するものです(1)。
腎不全に対するフィネレノンの効果
フィネレノンは、腎不全にも効果を発揮します。特に、糖尿病を伴う慢性腎臓病(CKD)の患者さんに対して、その効果が強く示されています。これまでに行われたFIDELIO-DKD試験やFIGARO-DKD試験では、フィネレノンを服用することで、腎機能の低下を遅らせ、腎不全の発症リスクを36%低減することが確認されました(3)。これにより、腎不全の患者さんにとっても大きな治療の可能性が広がっています。
心臓と腎臓の両方に働きかけるフィネレノン
フィネレノンは、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)という薬に分類されます。従来のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトンやエプレレノン)は、心不全治療に効果がありましたが、内分泌系の副作用が問題でした。フィネレノンは、ステロイドホルモン様の副作用が少なく、より安全に使用できるとされています(2)。
また、フィネレノンは心臓と腎臓の両方を保護する作用があることが確認されています。FINE-HEART試験では、フィネレノンを服用した患者さんで、心血管死、非致死的な心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院のリスクが低減することが示されました(4)。心不全の治療に加えて、腎臓の機能を守ることもできるため、多くの患者さんにとって大きな利点となります。
副作用と安全性
フィネレノンを使用する際には、高カリウム血症などの副作用に注意が必要です。ただし、臨床試験では高カリウム血症が原因で入院や死亡に至るケースは非常に少なく、全体的には忍容性が良好であることが確認されています。多くの患者さんが安全に使用できる薬剤として評価されています(1)(3)。
まとめ
フィネレノンは、心不全や腎不全の治療において新たな希望をもたらす薬です。特に、これまで有効な治療法が限られていたHFpEFやHFmrEFの患者さんや、糖尿病性腎症(CKD)を持つ患者さんに対して効果が確認されています。今後さらに多くの研究が進み、フィネレノンの適応範囲や長期的な効果が明らかになることで、より多くの患者さんが恩恵を受けることが期待されています。
参考文献
- Solomon SD, et al. Finerenone in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2024 Sep 1. doi: 10.1056/NEJMoa2407107. Online ahead of print.
- 絹川弘一郎. HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?. ケアネット CLEAR!ジャーナル四天王, 2024年9月26日.
- Vaduganathan M, et al. Finerenone in heart failure and chronic kidney disease with type 2 diabetes: FINE-HEART pooled analysis of cardiovascular, kidney and mortality outcomes. Nat Med. 2024 Sep 1.
- Jhund PS, et al. Mineralocorticoid receptor antagonists in heart failure: an individual patient level meta-analysis. Lancet. 2024;404:1119-31.
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