疾患解説

鉄欠乏性貧血について:原因・異食症の理由、検査方法

当院にも、鉄欠乏性貧血で来院される患者さんが多くいらっしゃいます。特に女性に多く見られ、「疲れやすい」「めまいがする」「氷を食べたくなる」といった症状を訴える方が増えています。中でも、氷を無性に食べたくなる異食症(Pica:ピカ症)は、一般的な症状ではないため、驚かれる方も多いです。本記事では、鉄欠乏性貧血の原因、異食症の理由、そして検査方法について解説します。


鉄欠乏性貧血の原因

鉄欠乏性貧血は、体内の鉄分が不足することにより、赤血球中のヘモグロビンが十分に作られなくなり、全身に酸素を運ぶ能力が低下する状態です。以下に、鉄欠乏性貧血の主な原因を紹介します。

  • 月経過多:女性に多く見られ、月経によって失われる鉄分が多いと、補給が追いつかず鉄欠乏となることがあります。
  • 妊娠・授乳:妊娠中や授乳期には、赤ちゃんに鉄分が多く必要とされるため、母体で鉄不足が起こりやすくなります。
  • 消化管出血:胃や腸で慢性的な出血がある場合(胃潰瘍、ポリープ、痔など)、鉄が徐々に失われ、鉄欠乏性貧血が進行することがあります。
  • 鉄の吸収不良:セリアック病や胃の手術歴がある場合、鉄の吸収が十分に行われず、体内の鉄が不足することがあります。
  • 食事による鉄不足:特にベジタリアンやビーガンの方では、ヘム鉄(肉や魚に含まれる鉄)が不足しやすく、植物由来の非ヘム鉄は吸収効率が低いため、食事だけでは鉄分が十分に補給できないことがあります。

異食症(Pica)の理由

鉄欠乏性貧血の患者さんでよく見られる症状の一つが、異食症(Pica:ピカ症)です。異食症とは、通常の食べ物ではないもの(氷、土、紙など)を食べたくなる状態を指します。特に鉄欠乏性貧血の患者さんでは、氷を食べたくなる行動が顕著に見られます。この行動にはいくつかの理由が考えられています。

  1. 脳の覚醒効果:鉄が不足すると脳への酸素供給が減り、疲労感や集中力の低下が起こります。氷を食べると口内が冷やされ、一時的に脳の覚醒度が上がり、疲労感が軽減されると感じることがあります。
  2. 口腔内の快感:鉄欠乏により口内に違和感や不快感を感じる場合があり、氷を噛むことでその不快感を軽減し、気持ちよさを得る行動として現れることがあります。
  3. 栄養欠乏に対する反応:異食症は、体が不足している栄養素を求める一種の適応反応と考えられています。鉄欠乏状態にあると、無意識に硬いものを食べることで何らかの満足感を得ようとする可能性があります。ただし、氷には鉄分が含まれておらず、この行動の背景には心理的な要因も関係しているとされています。

鉄欠乏性貧血の検査方法

鉄欠乏性貧血の診断には、いくつかの血液検査が必要です。以下は、診断のために行われる代表的な検査項目です。

  • ヘモグロビン(Hb)値:ヘモグロビンは酸素を全身に運ぶ役割を担っています。鉄不足が進行するとヘモグロビン値が低下し、貧血の症状が現れます。
  • フェリチン値:体内に貯蔵されている鉄の量を示す指標です。フェリチン値が低いと、体内の鉄が不足していることを示します。
  • 血清鉄:血中に含まれる鉄の濃度を測定しますが、一時的に変動することがあるため、他の指標と併せて評価します。
  • 総鉄結合能(TIBC):トランスフェリンという鉄を運ぶタンパク質の能力を測定し、鉄の不足時にはこの値が上昇します。
  • 鉄飽和度(TSAT):トランスフェリンに結合している鉄の割合を示す指標で、鉄飽和度が低いと体内に利用可能な鉄が少ないことを意味します。

これらの検査により、体内の鉄の状況を詳細に評価し、鉄欠乏性貧血であるかどうかを診断します。また、原因が特定できない場合は、消化管からの慢性的な出血が疑われるため、内視鏡検査便潜血検査が推奨されます。


まとめ

鉄欠乏性貧血は、女性に多く見られ、月経過多や妊娠・授乳、消化管出血、食事による鉄分不足が主な原因です。また、氷を食べたくなる異食症(Pica)が現れることがあり、これは脳の覚醒効果や口腔内の快感を得ようとする身体の反応と考えられています。鉄欠乏性貧血は、適切な血液検査によって早期に診断し、原因を特定して治療することが重要です。


参考文献

  1. Camaschella C. Iron-deficiency anemia. N Engl J Med. 2015;372(19):1832-43.
  2. Crosby WH. Pica: Its frequency and significance in patients with iron-deficiency anemia. Blood. 1971;38(4):481-6.
  3. Barton JC, Barton EH, Bertoli LF. Pica associated with iron deficiency or depletion: clinical and laboratory correlates in 262 non-pregnant adult outpatients. BMC Blood Disord. 2010;10:9.

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。