疾患解説

糖尿病の薬が腎臓にも効果あり?SGLT2阻害薬の新しい可能性

1. 糖尿病治療薬が腎臓にも良いって本当?

糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬が、今や糖尿病患者だけでなく、慢性腎臓病(CKD)を抱える患者にも効果があることがわかってきました。この薬は、単に血糖値を下げるだけでなく、腎臓の病気の進行を遅らせ、さらには心臓病の予防にも役立つとされています。この記事では、SGLT2阻害薬の中でも代表的なエンパグリフロジンダパグリフロジンについて、その効果を簡単に説明し、どちらがどのように役立つのかを見ていきます。


2. SGLT2阻害薬ってどんな薬?

まず、SGLT2阻害薬について簡単に説明します。この薬は、もともと糖尿病患者のために開発され、腎臓で血糖を再吸収する働きを抑えることで、尿中に糖を排出し、血糖値を下げる効果があります。さらに、尿中に糖が出ることで、体重を減少させる効果も期待されています。

驚くことに、この薬には他にも良い効果があることが次第に明らかになってきました。特に、心臓や腎臓を保護する効果があり、糖尿病でない患者でも有効な場合があるのです。


3. なぜ腎臓にも効果があるの?

腎臓は、体の老廃物をろ過し、尿として排出する重要な臓器です。しかし、腎臓がダメージを受けると、徐々にその機能が低下し、慢性腎臓病(CKD)へと進行することがあります。ここで役立つのがSGLT2阻害薬です。この薬は腎臓の中で糸球体(ろ過機能を担う部分)にかかる圧力を下げ、腎臓を守る働きをすることが研究で示されています。


4. エンパグリフロジンとダパグリフロジンの比較

では、代表的なSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジン(EMPA-KIDNEY試験)とダパグリフロジン(DAPA-CKD試験)の研究結果を見ていきましょう。この2つの薬が、どのように腎臓を守り、慢性腎臓病の進行を遅らせるかを比較します。


5. エンパグリフロジンの効果(EMPA-KIDNEY試験)

エンパグリフロジンは、糖尿病患者だけでなく、糖尿病を持たない慢性腎臓病患者にも効果があることが証明されています。この試験では、エンパグリフロジンを服用した患者のうち、腎臓の機能が悪化するリスクが28%減少しました。また、特にアルブミン尿が少ない患者にも効果がある点が注目されています。これは、より広範なCKD患者に対して使用できる可能性を示しています。


6. ダパグリフロジンの効果(DAPA-CKD試験)

一方、ダパグリフロジンは、糖尿病患者に対して非常に強力な効果を発揮し、特に尿中アルブミン量が多い患者において、その効果が顕著でした。この試験では、ダパグリフロジンを服用した患者で腎臓の機能悪化リスクが39%減少しました。特に、アルブミン尿が多い患者に対して強い効果があるため、より重度のCKD患者に向いている可能性があります。


7. エンパグリフロジンとダパグリフロジンの比較表

項目エンパグリフロジン (EMPA-KIDNEY)ダパグリフロジン (DAPA-CKD)
試験名EMPA-KIDNEYDAPA-CKD
対象患者糖尿病の有無を問わず、eGFRが20〜90 mL/min/1.73㎡のCKD患者糖尿病の有無を問わず、eGFRが25〜75 mL/min/1.73㎡のCKD患者(尿中アルブミン・クレアチニン比200 mg/g以上)
主要評価項目腎疾患の進行または心血管死の複合エンドポイント腎疾患の進行または心血管死の複合エンドポイント
腎疾患進行リスク低減率28%減少 (HR 0.72, 95% CI 0.64-0.82)39%減少 (HR 0.61, 95% CI 0.51-0.72)
糖尿病患者への効果効果あり強い効果
非糖尿病患者への効果効果あり(患者の54%が非糖尿病)効果あり(患者の32%が非糖尿病)
アルブミン尿の影響低アルブミン尿患者にも効果あり高アルブミン尿患者で強い効果
心血管イベントリスク低減率限定的な効果(有意な減少なし)心血管イベントリスクの有意な低減

8. 結論:自分に合った治療法を見つけるために

エンパグリフロジンとダパグリフロジンは、どちらもCKDの進行を遅らせる効果があり、SGLT2阻害薬の新しい可能性を示しています。特に、糖尿病患者アルブミン尿が多い患者にはダパグリフロジンが有効である一方、非糖尿病患者アルブミン尿が少ない患者にはエンパグリフロジンがより適している可能性があります。自分に合った治療法を選ぶためにクリニックで心配ごと、不明点があれば気軽にご相談ください。


9. 参考文献

  1. Herrington WG, Staplin N, Wanner C, et al. Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2023;388(2):117-127. doi:10.1056/NEJMoa2204233.
  2. Heerspink HJL, Stefánsson BV, Correa-Rotter R, et al. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020;383(15):1436-1446. doi:10.1056/NEJMoa2024816.

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