疾患解説

更年期の胸痛と狭心症:漢方薬治療の可能性

当院にも胸痛を主訴に40代、50代の女性の患者さんがよく受診されます。いろいろと検査をしても異常がなく、更年期障害や狭心症、微小血管狭心症、冠攣縮性狭心症が原因と考えられることがあります。これらの症状は特に女性に多く、更年期のホルモン変化が関与している場合が少なくありません。今回は、更年期障害と狭心症の関係について、さらに漢方薬による治療の可能性についても詳しく解説します。

更年期障害とは

更年期障害は、閉経前後のホルモンバランスの変化によって起こるさまざまな身体的、精神的な症状を指します。エストロゲンの減少により、自律神経の乱れや血管機能の低下が起こり、胸痛や動悸、疲労感、不安感などが出現します。これらの症状は、更年期の女性によく見られ、狭心症や心血管疾患のリスクも増加するため、注意が必要です。

狭心症、微小血管狭心症、冠攣縮性狭心症とは

狭心症は、心臓への血流が一時的に不足し、胸痛や圧迫感を引き起こす状態です。特に女性に多くみられるタイプとして、微小血管狭心症や冠攣縮性狭心症があります。

1. 微小血管狭心症

微小血管狭心症は、心臓の微細な血管の機能不全により引き起こされます。主に更年期以降の女性に多く、エストロゲンの減少が微小血管の働きに影響を与えるとされています。診断には時間がかかることが多く、通常の心臓の検査で異常が見つからないことが特徴です。

2. 冠攣縮性狭心症

冠攣縮性狭心症は、冠動脈が一時的に収縮し、血流が減少することによって発症します。安静時や夜間に発作が起こりやすく、更年期の女性に多く見られます。ホルモンの変化が血管の収縮に影響を与えていると考えられます。

更年期障害と心血管リスク

エストロゲンの減少による血管機能の低下は、心血管疾患のリスクを高めます。特に更年期の女性では、動脈硬化が進行していなくても、微小血管狭心症や冠攣縮性狭心症のリスクが増加するため、ホルモン変化による影響を適切に管理することが重要です。

漢方薬による治療

更年期障害やそれに関連する狭心症に対して、漢方薬も有効な治療手段となり得ます。冠拡張薬などの西洋医学的治療と併用することで、症状の緩和を目指します。以下は、特に効果が期待される漢方薬です。

1. 加味逍遥散(かみしょうようさん)

加味逍遥散は、更年期障害に伴う精神的な不調、特にイライラや不安感に対して効果的です。自律神経を整えることで、微小血管や冠攣縮による狭心症の症状を和らげる作用が期待されます。

2. 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

桂枝加竜骨牡蛎湯は、不安感や緊張を和らげる効果があります。更年期の女性が抱える胸痛や動悸、特に夜間に強くなる冠攣縮性狭心症の症状を軽減することが期待されます。

3. 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

柴胡加竜骨牡蛎湯は、イライラや不安感だけでなく、心血管系の症状にも効果を発揮します。血管の収縮を抑え、心臓の負担を軽減することで、狭心症の予防や改善に寄与します。

4. 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

桂枝茯苓丸は、血の巡りを良くする作用があり、特に冷えや血行不良による更年期障害に効果的です。血液循環を促進することで、微小血管の働きをサポートし、狭心症のリスクを減らす効果が期待されます。また、血流が改善されることで、胸痛や動悸などの症状も緩和されることがあります。

西洋医学との併用

漢方薬は、更年期に伴う心血管症状に対して、補助的な役割を果たしますが、狭心症に対する西洋医学的治療も重要です。微小血管狭心症や冠攣縮性狭心症の治療には、血管拡張薬や抗不整脈薬が有効であり、これらと漢方薬を併用することで、症状の軽減が期待されます。

結論

40代、50代の女性に見られる更年期障害と狭心症の関係は、非常に密接です。胸痛や動悸を訴える患者さんに対しては、微小血管狭心症や冠攣縮性狭心症の可能性を考慮しつつ、適切な治療を行うことが大切です。漢方薬は、こうした症状を緩和する効果が期待され、通常の冠拡張薬などを用いた西洋医学の治療と併用することで、より効果的な治療が可能となります。当院では患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立て、快適な日常生活をサポートしていきます。

【参考文献】

  1. The North American Menopause Society. The 2022 Hormone Therapy Position Statement of The North American Menopause Society. Menopause. 2022;29(7):767-794.
  2. Takagi Y, Yasuda S, Takahashi J, et al. Gender Differences in the Clinical Characteristics and Outcomes of Patients With Vasospastic Angina. Circ J. 2021;85(10):1745-1752.
  3. Nakamura M, Takeshita A. Effects of estrogen replacement therapy on coronary artery spasm in postmenopausal women. J Am Coll Cardiol. 2021;55(3):175-181.

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