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昆布を毎日食べていると甲状腺機能が低下する?

患者さんで甲状腺機能が低下している方から話を伺うと、「毎日昆布を食べている」という方がいます。昆布は健康に良い食品として広く知られており、特にヨウ素を豊富に含むため、甲状腺機能にも役立つと言われています。しかし、過剰なヨウ素摂取がかえって甲状腺機能低下症を引き起こすことがあるのです。この現象は、ウォルフ-チャイコフ効果と呼ばれ、今回はそのメカニズムについて詳しく説明します。

ヨウ素と甲状腺ホルモンの関係

まず、甲状腺はヨウ素を使って甲状腺ホルモン(T3とT4)を生成します。これらのホルモンは、身体の代謝や成長に必要不可欠です。通常、甲状腺は適量のヨウ素を取り込んでホルモンを生成しますが、ヨウ素が過剰に摂取されると逆に問題が発生します。昆布などの茶色い海藻は非常に多くのヨウ素を含んでおり、日常的に大量に摂取すると、過剰摂取につながるリスクがあります。

適切なヨウ素摂取量

世界保健機関(WHO)によると、成人の推奨ヨウ素摂取量は1日あたり150μgです。妊婦や授乳中の女性はさらに多く、250μgおよび290μgが推奨されています。しかし、昆布100gには約13万μgのヨウ素が含まれており、推奨量を大きく超えてしまう可能性があります。

ウォルフ-チャイコフ効果とは?

ヨウ素を過剰に摂取した際に、甲状腺が「自己防御」として反応するのがウォルフ-チャイコフ効果です。この効果によって、大量のヨウ素が体内に入ると、甲状腺は一時的にヨウ素の取り込みを抑え、ホルモン合成を停止します。これにより、ヨウ素過剰による甲状腺ホルモンの異常な生成を防ぎます。

通常、ウォルフ-チャイコフ効果は数日で収束し、甲状腺の機能は正常に戻りますが、過剰なヨウ素摂取が続くと、この抑制が長期化し、結果的に甲状腺機能低下症を引き起こすリスクがあります。特に、ヨウ素を含むサプリメントや昆布などの海藻を大量に摂取している場合、このリスクは高まります。

なぜヨウ素を過剰に摂ると逆に機能低下するのか?

ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に不可欠ですが、過剰に摂取すると、甲状腺はこれを危険信号と捉え、ホルモン生成を抑制します。これがウォルフ-チャイコフ効果の核心です。この反応により、短期間ではホルモン生成が減少しますが、長期間にわたってヨウ素の過剰摂取が続くと、甲状腺の機能そのものが弱まる恐れがあります。

ヨウ素過剰が引き起こす他のリスク

ヨウ素の過剰摂取は甲状腺機能低下症だけでなく、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)や甲状腺炎などのリスクをも高めます。特に妊娠中や授乳中の女性にとっては、過剰なヨウ素は胎児や新生児の甲状腺機能に悪影響を与える可能性があるため、摂取量には特に注意が必要です。

また、甲状腺疾患が既にある人は、ヨウ素過剰に対して特に敏感に反応しやすく、自己免疫性甲状腺疾患を持つ人々にとっては特にリスクが高いとされています。

昆布や海藻は避けるべきか?

昆布や海藻は適度に摂取すれば、健康に役立つ栄養素を豊富に含んでいます。特に日本では、日常的にこれらの食品が食卓に並ぶため、完全に避ける必要はありません。ただし、過剰摂取は避けるべきです。

適切な摂取量の目安

  • 昆布:1日あたり1-2cm程度(約0.5-1g)
  • ワカメ:1日あたり数グラム程度
  • ひじき:1日あたり小さじ1杯(乾燥状態で約3g)

これらの目安はあくまで一般的なもので、個人の健康状態や他の食事からのヨウ素摂取量に応じて調整する必要があります。特に、甲状腺に問題がある方は、医師に相談することをお勧めします。

まとめ

昆布などの海藻は健康に良いものの、ヨウ素の過剰摂取は甲状腺機能低下症を引き起こすリスクがあります。特に甲状腺疾患がある方や妊娠中の方は、摂取量に注意が必要です。日常の食生活では、ヨウ素を適量摂取し、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。

もし甲状腺機能に不安がある場合は、気軽にご相談ください。

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