小児科から青年で胸の痛みの原因としてPrecordial Catch Syndromeという病気があります。英語でCord-は語源として心臓を意味しており、”Precordial”は心臓の前という意味になります。つまりPrecordial Catch Syndromeは苦しさのあまり心臓の前のあたりをつかむような痛み、という意味の病気です。
Precordial Catch Syndromeは1955年シカゴのAlbert J. MilerとTeodoro A.TexidorがJAMAで初めて報告しています。
Miller AJ. “PRECORDIAL CATCH,” A NEGLECTED SYNDROME OF PRECORDIAL PAIN. J Am Med Assoc 1955;159(14):1364. Doi: 10.1001/jama.1955.02960310028012a.
原文を手に入れることができたので読んでみたのですがPrecordial Catch Syndromeの特徴は
- 突然生じる胸の痛み
- 鋭く、刺される様な痛み
- 胸の左側の乳頭(ちくび)周囲に多い
- 呼吸で痛みが強くなる
- 胸痛は30秒~3分程度持続する
- 安静時、もしくは軽度の運動時に起こることが多い
- 睡眠中には起こらない
- 胸の痛み以外の症状はない
- 背中を曲げた姿勢(slouched, bent over)で起きやすい
- 痛みは限局しており放散痛は伴わない
などが挙げられています。診断は除外診断、つまり心電図、レントゲン、心臓超音波検査などで異常がないことを確認し症状、患者背景などと併せて診断されます。特に治療の必要はなく年齢とともに症状は改善していくようです。1955年の論文ですのでまだ冠動脈造影もできない、狭心症や心筋梗塞の原因もはっきりしない、若年性の狭心症の原因としての川崎病などの疾患概念も確立していない、などの時代背景はありますが、今でもPrecordial Catch Syndromeという疾患概念が通用するところを考えると本質を捉えていた報告だったのだと思います。 Albert J. MilerとTeodoro A.Texidor の報告は35歳以下で起きやすいと記載されており、その後の報告では小児科からの報告も多いことから小児~青年期の病気と考えられています。 Albert J. MilerとTeodoro A.Texidor は論文内で胸膜の痛みではないか、ということを記載していますが現在でもはっきりとした原因はわかっていません。肋間神経や筋骨格の痛みという説もあるようです。
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