帯状疱疹は水ぼうそうのウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で発症します。80歳までに約3人に1人が発症すると言われており稀な病気ではありません。

帯状疱疹


帯状疱疹は、水ぼうそうと同じ水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる皮膚病です。痛みを伴う多数の赤い斑点や水疱が、体の両側の神経に沿って帯状に発生します。症状の多くは上半身に現れ、顔、特に目の周りに現れることもあります。皮膚に神経痛のような痛みが生じ、徐々に痛みが強くなります。その後、水泡を伴う発疹が神経の走行に沿って帯状に出現してきます。痛みが強く眠れないほど痛むことがあります。痛みや皮膚の症状は3~4週間ほど持続します。

帯状疱疹は”潜伏感染”という機序で発症します。水痘・帯状疱疹ウイルスは初めて感染した場合は水ぼうそうとして発症しますが、その後もウイルスは神経節の中に潜んでおり(潜伏感染)、加齢やストレス、疲労などで免疫力が低下した際に潜伏したウイルスの再活性化が起きて帯状疱疹としては発症します。

帯状疱疹の診断


帯状疱疹は初期には疼痛や痛みのみで発疹を認めないことや軽度の発赤のみで診断が難しいことも多い病気です。最近になり迅速診断キットが使えるようになり当院でも導入しています。デルマクイックVZVという診断器具です。これにより迅速な診断が可能となりました。発赤した皮膚や水泡から液を採取して検査すると10分程度で診断ができます。

帯状疱疹の治療


帯状疱疹の治療はウイルスを攻撃する抗ウイルス剤です。発疹が出てから72時間以内に抗ウイルス剤(アシクロビル、バラシクロビル)を飲み始めることが望ましいのですが、実際には受診が遅れることもあります。治療が遅れると発疹が消えた後も痛みの残る「帯状疱疹後神経痛」になることがあります。重症例や免疫不全例では入院して抗ウイルス剤の点滴治療が必要になる場合もあります。

従来の治療薬は腎機能に異常があると使用しにくいこともあり高齢の患者さんには使用をためらうこともあったのですが最近使えるようになったアメナビルは比較的安心して使えます。やや薬価が高いことが難点ですが診断キットと合わせて当院では使用頻度が増えています。

帯状疱疹後疼痛


帯状疱疹の問題点の1つとして後遺症として痛みのみが残る場合があり、「帯状疱疹後神経痛(PNH)」と呼ばれます。帯状疱疹が軽快してから3ヶ月以上継続して痛みが残存する場合を指します。帯状疱疹後神経痛はウイルスにより障害を受けた神経そのものが不可逆的な変性を来すため生じると考えられておりなかなか回復しないという特徴があります。また60歳以上の高齢者で多くみられるという特徴もあります。帯状疱疹の治療の目標の1つが帯状疱疹後神経痛の予防になります。痛み止めは以前はロキソプロフェンナトリウムなどの非ステロイド性解熱鎮痛薬が良く使われていますが、最近は腎臓への負担などを考慮して特に高齢者ではアセトアミノフェンが奨められています。

帯状疱疹の予防


日本で使用できる帯状疱疹のワクチンは2種類あります。いずれも50歳以上の方が対象となり過去に帯状疱疹になったことがある患者さんも対象になります。1つは小児の水ぼうそうの予防にも使用される弱毒生ワクチンであり、もう1つは最近開発された組み替えサブユニットワクチン(シングリックス®)です。サブユニットワクチンではウイルス表面のタンパク質のみを抗原として投与するため安全性が高いと考えられています。シングリックスの予防効果は非常に高く、有効性は50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%のデータがあります(ZOSTER-006、ZOSTER-022研究といいます)。また、予防効果の持続期間も長く、約10年後も効果が認められるデータがあります。欠点は比較的高価であることと2回接種が必要なことです(2回目の接種は1回目の2~6か月後)です。下記にそれぞれのワクチンの比較と当院での費用を記します。いずれも自費となっております。

*サブユニットとは

タンパク質の中にはいくつかの分離できるタンパク質で構成されているものがあり,その1つ1つのことをサブユニットといいます。シングリックスでは水痘ウイルスの表面にある抗原がサブユニットということになります。

水痘ワクチン 帯状疱疹ワクチン
ワクチン在庫 予約を確認して発注します 予約を確認して発注します
価格 8000 円 20000 円(1回あたり)
生ワクチン/不活化ワクチン 生ワクチン病原性を弱めた細菌やウイルスそのものを成分としたワクチン) 不活化ワクチン病原性をなくした細菌やウイルスの一部を成分としたワクチン)

サブユニットワクチンという新しいタイプのワクチン

接種対象者 50歳以上 50 歳以上
接種制限 お薬や既往歴の制限がある お薬や既往歴に制限はない
接種方法 皮下注 筋注
 

接種回数

 

5 年に 1 回接種

2 回接種

2 回目の接種時期は、1 回目接種から 2 ヶ月後~6 ヶ月以内

 

 

 

 

有効性

 

 

 

 

50~60%(全年齢)

9 年は確実に有効性があると言われている

2 回接種すれば

• 50 代:90 数%以上

• 60 代:80%

• 70 代:70%

の方が一生涯の有効性があると言われている

生ワクチンは免疫の弱った患者さんには接種できませんがシングリックスは接種可能です。予防効果で考えるのであればシングリックスが勧められますが費用が高価という欠点があります。またシングリックスでは注射部位の腫れ、痛みが良く認められ鎮痛剤などが必要になることもあります。いずれのワクチンも取り寄せが必要なため当院では予約制となっておりあらかじめ電話もしくはWEBから予約をお願いしております。

コロナウイルスワクチン接種後に帯状疱疹患者が増えている?


因果関係ははっきりしないのですがコロナワクチン接種後に帯状疱疹患者が増えているという報告が海外からいくつか出ています。まだまとまった研究報告の結果はなく症例報告、ケースシリーズといった段階です。そういわれてみると自分の身内でも帯状疱疹がでたり、帯状疱疹発症を発症される患者さんもいつもより増えているような気もします。周りのクリニックに尋ねても増えているような印象をもたれている方が多いようです。帯状疱疹は水痘ウイルスの再活性化により発症するのですがワクチン接種がなんらかの機序で水痘ウイルスの再活性化を起こすという機序とコロナ禍でのストレスの増加が原因であるという機序の2つが考えられているようです。